貴族の娘と庶民の娘がおりました。二人は身分の違いなど感じさせないほどに仲が良いものでした。

午前十時、午後三時、午後九時の一日三回。庶民の娘は必ず貴族の娘の屋敷へと出かけていきました。庶民の娘が屋敷に着く頃までに、貴族の娘は庭でお茶会の準備をしていました。執事と一緒に庭にテーブルと椅子を出し、テーブルクロスをひきます。美味しいクッキーを中央に置き、カップを並べます。今日のティーセットは蔦が絡みついたような柄で、上部には藤の花が咲いています。貴族の娘が目配せをすると執事は去っていきました。二人だけのお茶会が始まりです。

庶民の娘が紅茶の葉をポットに入れました。庶民の娘の家では紅茶を作る仕事をしています。貴族の娘はその家の紅茶がとても好きでした。庶民の娘ももちろんです。お茶会は二人にとって、とても幸せな時間です。

この日もいつものように二人は庭で会い、お茶会を始めました。貴族の娘が、じっくり蒸らした紅茶を二つのカップに注ぎます。今日のティーセットは薔薇の花びらが舞い散るような柄です。

庶民の娘がカップに口をつけました。その美味しさに思わずほうとため息が出ます。

貴族の娘がカップに口をつけました。こくんと喉がなります。貴族の娘は顔を少しゆがめました。それを庶民の娘は見逃しませんでした。

小さな疑問が庶民の娘の心に生まれたのです。私が持ってきた紅茶、おいしくなかったのだろうか。

次のお茶会も、その次のお茶会も、貴族の娘は紅茶を飲むと顔をゆがめたり、庶民の娘のものとは違うため息をついたりするのでした。

ある日、うつろな目で大きく紫陽花の咲いたカップを持ち上げた貴族の娘に、庶民の娘は聞いてみました。

私のお茶、もしかしておいしくないの?

貴族の娘の目がひゅっと変わり、あわてた様子になりました。あんまりあわてた貴族の娘は、カップをソーサーにぶつけてしまい、かちゃんと大きな音がしました。

いいえ、何でもないのよ。

貴族の娘は眉を吊り下げ目を細めました。けれどもすぐに下を向き、はぁとため息をつきました。

お茶会が終わった帰り道、庶民の娘は道すがら考えていました。

私のお茶、きっとやっぱりおいしくなかったんだ。でもいつもと味は変わらない。うちで作った紅茶はいつものように一番おいしい。じゃあどうして? ……うちよりも美味しい紅茶を飲んだ? そんな紅茶がある? あるかもしれない。お金さえあればあの子は何でも手に入る。日替わりのティーセットはまさにそれを示しているじゃない。

次のお茶会に庶民の娘は行きませんでした。

貴族の娘は執事と一緒にいつものように準備をします。いつもの時間に現れない庶民の娘を、貴族の娘は心配して待っていました。ひまわりの花そのもののような黄色いカップを、葉が描かれたソーサーの上にちょこんと乗せたものがテーブルに二つ。貴族の娘の向かいの席はいつまでも埋まりません。

しばらく待った貴族の娘は、ポットに湯を入れ、さらに待ちました。そしてカップに注ぎそっと口をつけました。

庶民の娘はこっそりと見ていました。屋敷を囲う柵の外からこっそりと見ていました。背の高い何輪ものひまわりが、外にずっと立っている庶民の娘を隠していました。

やっぱり私のいない間に……

庶民の娘は確信しました。