フローリングの床にはピンクのチェックの絨毯、それとおそろいのカーテンは窓の脇で留めてあり、レースのカーテン越しに部屋が照らされる。部屋の隅にはこぢんまりとした十五インチのテレビとビデオデッキ。その脇にあるコンポから最新ヒットソングが流れる。他に何も聞こえない。平日の昼間は静かだ。
「彼女の膝枕で耳かきしてもらうなんて幸せだよな?」「ほら、動かないで。見えないから。」
この部屋の住人は膝に乗った頭をぺしっと叩いた。綿毛が彼の耳をくすぐる。そこには、昨日までなかったピアスが付いていた。
「穴、開けたんだね。」「昨日の夜、自分で開けたんだ。」
「ピアスホールといえば、こんな話知ってる?」
耳かきを持った手がしばし止まる。膝の上の顔と目が合った。
ある女の子がね
友達にピアスホールあけてもらってたんだって。
氷で冷やして
安全ピンでぶすり。
そしたら
なんかその開けた穴から白い糸が垂れてたの。
それを切ったらね、
女の子が言ったんだ。
友達にピアスホールあけてもらってたんだって。
氷で冷やして
安全ピンでぶすり。
そしたら
なんかその開けた穴から白い糸が垂れてたの。
それを切ったらね、
女の子が言ったんだ。
「どうして電気消したの?」
「……意味わかんねーよ。」
「その白い糸はね、女の子の視神経だったの。……もっとノってよ!つまんないなぁ。」
彼女はそっぽを向いて、耳かきを持った手を乱暴に動かした。
「痛っ!」
その瞬間だ。
彼に聞こえていたヒットソングは、サビの一番高い音で切れた。
何も聞こえない。
まさか
鼓膜
破った
とか
・
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・
鼓膜
破った
とか
・
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・
・
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「あ、停電だ。」
彼女は、何の表示も出ないビデオデッキを見つめていた。