『大丈夫かい?』
魔導師に問いかける戦士の言葉は途中でぶっつりと切れた。
さっきまで聞こえていたはずの鳥の鳴き声も、木々のざわめきも、何も聞こえない。
『間に合わなかった……。魔王が世界の音を消し去ったんだ。』
戦士の唇が動くのを読み取った。
『急いで魔王を倒して、全て元に戻そう。世界に平和を取り戻すんだ。』
聞こえない言葉に、魔導師は頷いた。
戦士の視線がパートナーの腕に注がれる。
先ほどの戦闘の際に怪我をしたところだ。
それを気遣う言葉は届かなかったが。
魔導師は得意の癒しの術でそれを治そうとした。
指で宙に魔方陣を描きながら、呪文を唱える。
しかし、言葉は出てこない。
腕からは血が流れ続ける。
慰めるように戦士は魔導師の背中を叩いた。
戦士が前に立ち、後ろを重い足取りの魔導師がついて行く。
音のない世界は怖い。
すぐ傍のパートナーさえ居るような気がしない。
空気が凍ったような感じだ。
静か過ぎる冷たい世界だ。
魔導師は妙な不安感に襲われ後ろを振り向いた。
少し離れたところに魔物がいた。
あの種の魔物は炎を吐く。
今まさに吐き出そうと息を大きく吸い込むところであった。
そいつは戦士の方をまっすぐ狙っている。
『危ないっ!』
魔導師の叫びも、この音のない世界では届かない。
戦士に向かって炎が吐き出される。
この音のない世界、呪文の唱えられない魔導師は何の役にも立たない。
それならば。
魔導師は両手を広げ、戦士をかばうようにして立ちはだかった。