逃げる

back

逃げる

1.息子が成長期で夜な夜なつまみぐい
2.父親が米に字を書く職人技に没頭中
3.母親が二口女で夜中に後ろの口がぱくぱく

  さて、父母息子、一般的な核家族というこの家庭から食卓にあげた覚えもないのに米びつから米が次々と消えていくのは何故か。

正解は……?





聞こえるものは寝息といびきだけ。
ひっそりとした家の中、台所でがさがさと活動を始める。
決してゴキブリなどではない。
米びつの蓋の裏にはびっしりと隙間なく米粒。
蓋が僅かに開き、そこから米が何粒かこぼれる。
厳密には『這い出してくる』。



「土のにおいと風にゆられる故郷から強引に 誘拐され身包みはがされ、 満員電車のように袋へぎゅうぎゅうに詰め込まれる。 袋から出られても暗い空間に閉じ込められるばかり。 時折天井が開き、仲間が連れ去られる。 ここからは聞いた話であるが、連れ去られた仲間達は、 水攻めにされる。 そして、炊飯器という名の 拷問部屋に閉じ込められ、 じわじわと熱を加えられるのだ。 灼熱地獄!



流しの下から聞こえる声。
堂々としたそのしゃべり方は演説の様だ。
その声にさらに力が入る。



「この話が本当ならば、我らはこの先 お先真っ暗地獄のみ! しかし我々はその運命に今、立ち向かう! 鎧を脱がされていない『玄米』、 ドーピング済みの『強化米』。 心強い仲間も居る。」



流し台の下にびっしりと米粒が並んでいる。



「さぁ、諸君立ち上がれ!

我々は自由を求めて戦い続けるのだ!

いつしか人間を支配し、

コメ帝国』として世界を征服するのだ!


コメ帝国万歳!」

「ばんざーい」








ほら、家の流しの下を見てごらん?


米達がアナタを狙って……