ハムスター

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逃げる





店の前でふと、立ち止まった。



安っぽいつくりの棚に並べられる檻達。
そのうちのひとつの中で彼(彼女かもしれない)は足掻いていた。
荒い間隔で、それでも中から出られはしない鉄格子に、
小さな手を引っ掛けてよじ登る。
檻の上部にある蓋に歯をたてかじる。
そんなにやったら歯が欠けてしまいそうだ。

――そんな事したってここから出られはしないのに。

格子をきゅっと握り締めている小さな手を指でつつくと、
彼はころりと下に落ちた。
でも、またよじ登り、
格子を懸命にかじるという無駄な行動に出るのだ。
そんなところが気に入ったのかどうなのか、
私は彼(結局彼だった)を家族の一員にした。





「……また脱走した!」

仕事から帰ってきて、まず目に入ったのは穴の開いた絨毯。

そこから彼はひょっこりと顔を出した。

彼の本来の居場所である檻は、
側面に付けられた扉が開いていて、
そこから巣材や餌が点々と落ちている。

不安いっぱいに部屋を見渡すと、
脱ぎ捨ててあったカーディガンはぽっかり穴があいていた。

部屋の隅に置いてあったストックのトイレットペーパーは、
ビニールの袋が破られていて、
紙はもちろんぼろぼろに食い荒らされ、散らばっている。

ビデオデッキにデジタルの時計が表示されないのは
コードを食いちぎられたからだろうか。


彼はげっ歯類である。


故に家中の絨毯や洋服その他もろもろが被害にあう。

そのうえ彼は小さくすばしっこいので捕獲には一苦労。

さて、今回の彼による被害はいかほどか。



ハムスターを飼うとはこういうことだ。