逃げる

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逃げる

小学五年生の一大イベント自然教室。

その締めくくりに、帰り道の田んぼのそばでお昼を食べる。 都市部に帰る前に自然教室の余韻を味わう、ってわけ。

でも、先生が 『弁当は生活班で固まって食べなさい』 と言った所為であまりおもしろくない。
生活班はくじ引きで決めたやつで、仲のいい友達が班にいない。
中でも一人の男子はあまり知らないけれど、 よく怒鳴ったりしていてちょっと怖いな、と思ってる。



私がお弁当を食べ終わったころにはみんな田んぼ周辺で遊んでた。
ゴミを片付け終わった私の元に、 田んぼの方から例のちょっと怖い男子が近づいてきた。

ちょっと手を出せ、という言葉に、私は控えめに両手を差し出した。
言う通りにしないと、怒鳴られる気がしたし。

その手に、彼の手から何かがこぼれた。

それは私の手に収まった。
でも次の瞬間、動くような感触があって反射的に両手で包み込んだ。

「カエル、持ってろよ、逃がすなよ。家まで連れて帰るんだからな。」

それだけで、男子は田んぼに戻って行った。

消しゴムくらいの大きさで、緑っぽい泥っぽい色だった。
ぬるりとしている。
手の中で飛び跳ねる所為で手がぬるぬる気持ち悪かった。
何回目かのジャンプで思わず私が手を離したら、 カエルはあっという間にどこかへ行っちゃった。

例の男子がまた近づいてくる。
その手には、さっきのより一回り大きいカエルが握られているみたいに見えた。
その後ろには別の男子がやっぱりカエルを握っている。
そんなにカエルを家へ連れて帰りたいか。

「おい、今度はこっちも……カエル逃がしたな……。 カエル王国計画が!
「え、だって………でも…………」

男子はマジ切れ状態。
どんな言い訳も通じなさそうなその状況に、 私は脱兎のごとく駆け出した。