春、梅雨、夏、秋、冬

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五つ目の季節
四ノ宮家では今、子供達
―上から
長男、雅春(まさはる)
長女、千夏(ちなつ)
次男、秋彦(あきひこ)
次女、冬枝(ふゆえ)
である―
が興味津々にテレビを覗き込んでいた。
番組は夕方のニュースである。
母親は台所、父親は仕事が早く終わったのですでに家に帰っている。
子供たちの後ろで本に没頭していた。

テレビ画面下に、【日本の四季、五季になる】とテロップが表示された。
キャスターがニュースを読み上げる。


『……気象庁は梅雨を季節として認定し、
日本の四季を五季と改めることを発表しました。
これによって……』



梅雨が四季に加わるからといって、
子供たちの生活の中で変わることは何もない。

しかし、実は彼らの親にとっては大問題だったりもするのである。

母親はエプロンで手を拭きながら父親の隣に座った。
子供たちには聞こえないように話し掛ける。

「ねぇ、まだ子供がんばりましょう。
梅雨……そうだ。梅と雨にわけるって手があるわ。
そうしたら双子がいいわね。
男の子だったら梅太、 女の子だったら小梅がいいと思うんだけど。
もう一人は……」


母親の手にはしっかりと、辞書が握られていた。


「男の子なら雨竜(うりゅう)よねぇ…。
女の子だったら……あ、この雨花(うか)ってかわいいわ。
あなたはどう思う?
梅雨はどうしようかしら。

ねぇ、あなた聞いてる?

“つゆ”はどうしよう?



父親は本から顔を上げ、母親にまじめな顔で言った。



「つゆじゃったら鰹だしがええで。 このみゃーみたいなすんげー濃いいのは駄目じゃけぇな。」



広島出身の父親の手に握られている本には、 『全国そうめん列伝』と書かれていた。