ふわ、ふわ、ふわわ

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空中散歩

高いところから見る町は、いつもと違って広く感じた。
手で覆い隠すようにしても透き通って見える。
ふわふわと飛んでいる私。



自由な体で私は町を飛んで回ってみる。
風は私の中を通り抜けてていった。
今までに感じたことのない感覚だ。



私は会いに行った。



友達に
手を振って
声をかけて

でも

返事はなくて。



生まれたときからずっと住んでいる家。
私を迎え入れてくれるようだ。
壁にそっと手を触れると、
そのまま溶け込んでいくみたいだった。
そして、私は室内へと吐き出された。
母がコタツの中からテレビを見ている。



今までありがとう。



私はそっとお辞儀をする。
涙があふれそうだった。

母はテレビから目を離さない。
こっちを見ようともしない。



さよなら。



嗚咽になって出てきそうなのをきゅっと飲み込み、家を後にした。
子供のころからずっと住んでいたはずなのに全く違う町に見えた。



海のほうに行く。
崖沿いの道路は車が全く走っていなかった。
道路を進むとやがて、ぼこぼこになったガードレールが見えた。
そこから下へと降りていく。



まだ在った私の躰。



誰も見つけてくれなかったんだ。



平べったくなっている車の隣で赤く染まっている私は
なんだか別のものに感じた。

横にしゃがみこんで血でべったりとぬれた髪をかきあげる。
それは確かに私だ。

そっと抱きしめる。



この町にまだいたい。
でも行かなきゃ。



さよなら、みんな。



私は光へ向かって飛んでいく。